病院で働いてたし、すぐ医薬翻訳できるかな!??
こんにちは!
この記事は翻訳に興味のある方、その中でも
「自分のバックグラウンドを活かした分野で翻訳をしたい」と思っている方にぴったりの内容になっています。
翻訳の世界に入る時に考えることの重要ポイント、「専門分野」。
専門分野を定める助けになるものであれば嬉しいです。
プロフィールや経歴の記事にあるとおり、
私は以前大学病院で臨床検査技師として検査業務に従事していました。
臨床検査技師として勤務する前から
大学4年間、大学院2年間、どっぷり人体について学んできました。
この経験があるから、翻訳の中でも「医薬」翻訳をやろうと決めたのでしょうか?
「はい、そうです!!!」
やはり、当時の医療どっぷりの私がITの文章を読んでも、
映像の文章を読んでも、
「いや・・・お金をもらって翻訳できる自信がない」と思いました。
では、このように自分のバックグラウンドと同じ分野を専門と決めてしまって良かったんでしょうか?
この記事では、自分の職歴と同じ分野を専門に翻訳者として3年働いた上で、
利点と欠点をご紹介したいと思います。
他の翻訳者さんのブログでは、割と「文系から医薬翻訳」など、
違う分野からの参入について書かれている記事をお見かけしますが、
こちらではあえて同じ分野からの参入についてフォーカスを当てています。
私と同じように「今までの経験を活かして翻訳者になりたい」と考えている方のお役に立てたら嬉しいです。
利点
1.土台となる知識がすでに習得済みである
医療従事者として資格を持って働いていると言うことは、
国家試験に合格している、つまりある一定の知識や技能を持っていると言うことが裏付けられているということです。
翻訳をするとき原文に書かれている内容を本当の意味で理解するには、やはり背景知識が必要です。
もちろん他の分野も同じかと思いますが、プロとして文章を書けるようになるには、
その世界の言葉を巧みに操る必要があり、そのためには幅広い基礎知識が不可欠だな、と思います。
もちろん文系から医薬翻訳に進まれている方はたくさんいらっしゃるので、
知識をつけることは不可能ではありませんが、もしすでに学習済みであれば、この知識という財産を活かさない手はないのではと思います。
2.独特な医薬系文章に慣れている
これは文書の内容にもよりますが、医薬翻訳で扱う文書の多くは結構「堅い」内容が多いです。
初めて医薬系の文献や文書を読むと本当につまらなくて眠くなります笑。
ですが、それはロジカルに簡潔に情報を伝えるには最適な手法なので堅くならざるを得ないのです。
私自身も、大学院に入って論文を執筆するに当たり、「作文」から「論文執筆」の言葉遣いを教授にたたき込まれました。
私が書いた原文がみごとに真っ赤に書き換えられているのですが、「論文執筆」を長年されている教授が書き直した文章は、すっきりと私の伝えたいことを捉えているのです。それも医療系雑誌に載っていそうな文調で。
これは一朝一夕で身につくことはできないスキルなので、日常的に医薬系の文書に触れている方は翻訳の場でも有利にはたらくことが多いと思います。
3.自分の臨床経験で文書の内容が手に取るようにわかる
これは、実際に私が翻訳や校正をしていて思うことです。
自分が臨床現場で手を動かして仕事をしていたことは、映像としてはっきり蘇ってきます。
ここで例を挙げてもマニアックで理解されない気がしますが・・・
血液塗沫標本ってご存じですか笑?!
こんな感じで・・・スライドグラスの上に患者さんの血液を塗り伸ばして、
血液細胞の数や形態をみることができるんです。
この標本の作り方についてのマニュアルの翻訳を担当したことがありまして・・・
これは本当に「私にオファーしてくれてありがとう!!!」と思いました。
(血液塗沫標本をうまく作れるようになるために、残業して1日30枚いい標本を作れるまでひたすら練習したものです・・・。最初は100枚くらいは引きました汗)
貧血の人は薄くなってしまう、小児は厚くなってしまう・・・試行錯誤でした。
これは本当に標本を引いたことがある(作成したことがある)人しか原文を理解することがとても難しいのではないかと思います。
上にもあるように、「標本を引く」とか、「厚すぎる」「薄すぎる」と現場ワードがたくさんあるのです。
これを上手く翻訳に反映しないと読み手には伝わらなくなってしまうのです。
欠点
1.「医療」の世界は広く、自分はその一部のことしか知らない
私は医療従事者の中でも臨床検査技師なので、検査のことには詳しいです。
しかし「医薬」の世界は本当に広く、検査はそのほんの一部でしかないのです。
これは頭ではわかっていましたが、翻訳の経験を重ねるごとに痛感しています。
一口に「医療機器」と言っても、検査の分析機器ならば一通り扱えるので、
翻訳の文書も使い手のことを想像して翻訳できているなぁと思います。
しかし、たとえば「カテーテル」とか「放射線治療装置」とか、少し分野が外れるとさっぱりわからなくなってしまいます。
このように自分の専門から外れた翻訳をするときのリサーチが甘いなと思うことがあるのです(自戒をこめて)。
自分は医療従事者だから、とか、これだけ勉強してきたから・・・と慢心せずに、
分野外であることを自覚して臨まないといけない場面がたくさんあります。
あとは、コーディネーターさんから「あなたは医療従事者なんだから、医療系のことはなんでも知っているわよね?!」という風に見られがちです。
このハードルを、期待を超えることはとても大変で、やりがいを感じつつもいつもチャレンジしている感じです。
2.知識のアップデートを怠りがち
医療の現場にいると、勉強会や学会やカンファレンス・・・と情報のシャワーを浴び続けていますよね。
土日も含めて勝手に情報を手に入れることができる環境にいました。
しかし、ひとたびその輪から離れてしまうと、自分で新しい情報を手に入れようとしないと、何も情報は入ってきません。
今まで自分で情報を学びに行こうとする習慣がない方は要注意です。
私はというと、できるだけ今までの医療系の仲間と情報交換をするようにしています。
でも本当はもっと勉強しないとな、と思っています。
そして私が素晴らしいな思うのは、元々医療系のバックグラウンドをお持ちでない翻訳の先輩の勉強熱心なこと!!!本当に脱帽です。
恐らくリサーチ力が磨かれているので、初めての分野でも正しい「ドンピシャ」な情報にたどり着くスキルが身についているんだと思います。
これは私はまだ到達していないなと思っている点で、ぜひのばしていきたいと思っています。
3.「言葉」への感性が低い(ことがある)
これは人によりますが、翻訳の内容が合っていても文章が読みにくいことがあるかもしれません。
翻訳を始めたばかりの時は、とにかく原文に忠実に、とそればかりを追いかけていましたが、最近は「読みやすさ」を求められることが特に多いなと感じます。
また自分も少し実力が上がり(と信じています)視野が広がったことによって言葉の端々に気を遣うようになり、より翻訳が難しく感じるようになりました。
なぜ難しいと感じるかというと、最近は翻訳を言語から言語への置換ではなく、
原文からターゲットの言語で読者が読みいやすい文章へ翻訳する、書いて説明する、という点を強く意識するようになったからです。
ですので、最初は「自分のバックグラウンドを活かして医薬翻訳!」といった感じで参入しましたが、3年経った今は「言語を扱う専門家」という色合いが濃くなっていき「まだ医薬翻訳全然できてないな」と思うことがむしろ多くなりました。
でもこの悩みは、翻訳という世界で生きていくには正常なプロセスかなとポジティブに受け止めて日々修行している感じです。
と、私が感じてきたことを書いてみました。
結論としては、医療従事者は、医薬翻訳に「参入しやすい」のではないかと思います。
ですが、翻訳を続けていく、ということになると話は全く違う、結構大変かなと思ってもいます。
それはやはり、翻訳は「言語を扱う仕事」だからです。
私は「医療」に関するトレーニングは学校・職場を含めて10年を超えますが、こと「言語」に関しての経験は浅いです。
ですから、翻訳者としてお仕事をし続けられるように、医療系の情報をアップデートしつつも、もっと「言語を扱う専門家」としての腕を磨いていかないといけないと思っています。